第2期 第7回医鍼連携研修を下記要領にて開催しました。
日時:2019年12月15日(日) 受付開始 9:10
場所:東京大学医学部附属病院 中央診療棟 7階大会議室
カリキュラム
【臨床各論共通テーマ】 COMMON DISEASE への対応を確実に身につける 12月 耳鳴り・難聴
【東洋医学的な考え方について系統的な講義】 中医鍼灸 : 診断学2 / 経絡治療 : 68難本治穴
※ 現代医学:NTT東日本関東病院 リウマチ膠原病科部長 津田篤太郎先生
現代医学
生理学と解剖学をベースにして「聞こえ」のメカニズムを紐解く講義でした。帆掛け船の帆となる鼓膜と水面下でテコの役割を担う耳小骨が【空気の振動】を【液体の振動】へと増幅変換し、内耳の蝸牛がさらに【電気信号】に変えて脳に伝えるという流れです。蝸牛内で電位差を作って音の分解整理をしている血管条は腎臓の尿細管とそっくりな組織だそうです。そのため、尿細管を傷める薬は聴力障害も引き起こすとのこと。20世紀になって判明した腎と耳との深遠な関係を昔の人が直感で理解していた不思議…、津田先生ならではの講義でした。
蝸牛の機能であるactive processについての詳細な解説で、老人性難聴等は感度低下だけでなく質の変化も伴い、音が歪んで認識されることの理解が深まりました。耳鳴りは聴力低下が根底にあり、脳が勝手に欠損を埋める情報処理をして作り出したものとする説もあるそうです。
最後に、聴覚障害の原因となる主な疾患について、気をつけた方が良いことや問診のコツ、red flagの説明がありました。
現代鍼灸
眼・耳鼻咽喉・口腔領域は自律神経反射による反応で鍼治療の効果が出やすく、海外でも鍼が推奨されているガイドラインがあるという紹介からスタートしました。
耳鳴りの主な原因疾患である伝音性難聴と感音性難聴について、聞こえが悪くなる原因と鍼灸治療のアプローチの考え方について理論的な説明がありました。
中耳の炎症の浮腫みで耳小骨の動きが低下している伝音性難聴に対しては、耳小骨筋(の支配神経)に刺激を与えて振動の亢進を図ります。
内耳の血行障害により神経が不具合をおこしている感音性難聴に対しては、頸部交感神経節周囲に刺鍼し、内耳の動脈に繋がる椎骨動脈の血流改善を図ります。
頸部の触診により治療効果が推測できるという説明と、医療機関と連携する為には治療前後の変化をしっかりと評価することが重要であるというアドバイスがありました。
実技では、伝音性難聴は三叉神経第3枝と顔面神経、感音性難聴は胸鎖乳突筋周りの頸部交換神経節にアプローチする刺鍼を行いました。
中医鍼灸
耳鳴り・難聴の中医学的なメカニズムの説明は、虚実の弁別から入りました。「虚」は老年による腎虚や肝血虚によるもので、「実」は痰火、熱、血瘀で少陽経がつまることにより生じます。風熱邪が肺の脈絡(耳管)から入るルートもあります。耳を押さえて耳鳴りが大きくなれば実証型、小さくなれば虚証型という虚実の簡便な見分け方も教わりました。
治療法は少陽経周りへの標治と引き起こす原因に対する本治となり、それぞれの治療穴の説明後、標治の局所穴・循経穴、本治関連では痰火を取る穴への刺鍼を行いました。
総論の診断学第2弾となる脈診は、脈状診のうち八祖脈について。数遅・大細・浮沈・虚実(一番強く打っているところで脈に芯があれば実)の判定方法についての説明があった後、横田先生が脈診チェックをして回り、感覚のすり合わせを行いました。
続いて六部定位臓腑分候による証立てについての解説があり、最後に、本日の各論テーマである耳鳴り・難聴について、「腎精不足」「肝火」「痰熱」の起因別に臓腑分候が示され、患者に対する治療予測の説明にも有用とのことでした。
経絡治療
総論は68難本治穴がテーマでした。経絡治療では、「病=経絡の変動」と捉えてますが、68難治療法では、問題のある経絡に要穴の性質を用いて本治治療を行います。
五行穴の主なものは、「兪土穴」…脾の性質(気血津液を産生)を用いて、気血量を増やし冷えを改善する。「経金穴」…肺の性質(補気)を用いて、停滞しているものを巡らせる。「合水穴」…水の性質(冷やす・潤す)を用いて、虚熱の発生を抑制したり緊張を緩和する。
肝虚証を例にとると、冷えが強ければ「肝腎の土金」、熱が強ければ「肝腎の水金」となります。五要穴(原穴・郄穴~)についても説明があった後、68難本治と69難本治の使い分けについても言及がありました。
各論の「耳鳴り・難聴」は、感覚器実質(=骨髄)に問題がある腎虚熱証・腎精不足、ストレスによる自律神経失調症、耳管に原因があるものに区分し、病態把握と所見の取り方、それぞれに対する本治と標治について解説がありました。実技では、翳風周りの固さや下顎の後ろから耳管に向けた刺鍼、首肩周りの緊張を緩める刺鍼を行いました。